マンションの浄化槽の仕組みや役割を中心に、マンションの浄化槽について解説をしていきます。
マンションには浄化槽が設置されている物件がありますが、その役割や仕組みを具体的に知っていると言う方は少ないのではないでしょうか。
また、浄化槽と言う言葉を物件の契約時に初めて聞いたと言う方や、浄化槽自体は知っているけれども実際の衛生面はどうなんだろうと疑問に思う方も多いはずです。
目次
マンションの浄化槽の仕組み|浄化槽とは?
そもそも浄化槽とは何なのか、何故必要なのかと疑問に思う方もいらっしゃると思います。
浄化槽とは、各家庭のキッチンやトイレなどから排出される生活雑排水と呼ばれる汚水を、一時的に敷地内にある大型のタンクに流し微生物を利用して汚水の浄化処理を行い、海や川などに放流する設備の事を浄化槽と呼んでいます。
この浄化槽は、各地域に建てられている汚水ポンプ所・沈殿池・水再生センター(かつての下水処理場)を1つにまとめ小型化した設備で、戸建て世帯の場合には延べ床面積に応じた容量のタンクが、マンションの場合には部屋数や推定居住人数などに応じた大きさのタンクを設置することが義務付けられています。
主に下水道へ直結する事のできない建物に設置される設備で、浄化槽が無いと汚水を浄化処理すること無くそのまま海や川へ放流する事になってしまい、土地の周辺や川などが汚水で溢れてしまい、環境汚染の原因となったり極めて不衛生な状況に陥ってしまうため、汚水による公害を防ぐ意味で浄化槽は非常に重要な役割を担った設備なのです。
マンションの浄化槽の仕組み|浄化槽が必要なマンション
浄化槽は各世帯から排出される生活雑排水を浄化し、海や川などに放流を行う大切な設備ですが、地域によってはマンションでも浄化槽の設置が必要となる場合があります。
ではどの様な地域のマンションで浄化槽が必要となるのでしょうか。
一般的には公共下水道が敷地内または近隣まで整備されていない場合や、公共下水道は整備されているがマンションの部屋数や近隣の世帯数に対して水再生センターの浄化処理能力を超えてしまう恐れがある場合には、マンション独自で浄化槽を設置する必要があります。
また、公共下水道は基本的に地下方向へと緩やかに下っており、雨水や汚水によって重力に逆らうことなく自然と汚水ポンプ場へ流れていき、ポンプ場で一度下ってきた汚水を上の下水管に上げる工程を繰り返し、最終的には沈殿池や水再生センターへと運ばれて行きますが、公共下水道よりも低い位置に建てられているマンションの場合は汚水を重力に逆らわずに流すことができないため、この場合に於いても浄化槽が必要な場合があります。
マンションの浄化槽の仕組み|浄化槽の仕組み
浄化槽は公共下水道を利用できない場合や、近隣の浄化処理施設が整っていない場合などに設置されますが、ここではマンションに用いられる浄化槽の具体的な仕組みについて説明していきます。
浄化槽にも様々なタイプがありますが一般的な浄化槽は、1つのタンク内に4~5つ部屋が設けられており、まずはマンション全体から排出される生活雑排水を一箇所に集め濾過する作業に入ります。
1つ目の部屋は排出された汚水に含まれる大きな汚れと水に溶けている汚れを濾材と呼ばれるフィルターを通して分離していき、濾材に付着した嫌気性(けんきせい)の微生物が有機物を分解していきます。
有機物が分解された汚水は2つ目の部屋へと移され、1つ目の部屋よりもより細かな濾材を使用し再度同じ工程が行われて3つ目の部屋へ移されます。
この2つの槽の事を「嫌気濾過床槽」と呼びます。
3つ目の部屋は「接触曝気槽」(せっしょくばっきそう)と呼び、接触材と呼ばれる格子状の物体に付着する微生物に酵素等が入った空気を送り出しながら循環させ、さらに汚水の浄化を進めていきます。この汚水と酵素等の空気を吹き込み混ぜ合わせる作業を「曝気(ばっき)」と言いい、ブロワーと呼ばれる機器から空気を送り込み微生物を活発化させています。
最後の部屋は「沈殿槽」と呼び、ここまで浄化処理をされてきた汚水に最後まで残っている固形物やゴミを沈殿させ、不純物の少ない上澄み部分の水を最終工程である消毒槽へ送る為の部屋です。
消毒槽へ送られた処理水は塩素消毒が行われた後に衛生的な水となり、海や川へと放流が行われる仕組みとなっています。
設備の大なり小なりはあるものの、浄化槽で行われる浄化処理の過程は、水再生センターで行われる一括処理の工程とほぼ同じとなります。
マンションの浄化槽の仕組み|浄化槽には種類がある
浄化槽は水再生センターと同様の工程で汚水の浄化処理が行われますが、実は浄化槽には汚水浄化方法や使用用途の異なる2種類の浄化槽が存在します。
1つ目は現在使われている、トイレやキッチンなども含めた各家庭で排出される全ての生活雑排水を一括で処理する「合弁処理浄化槽」と言う種類の浄化槽です。
この浄化槽は嫌気濾過・接触曝気・沈殿・消毒を経て衛生的に問題の無い処理水が、海や川に放流される仕組みの浄化槽で、平成13年に法改正が行われた「浄化槽法」という法律によって、この法律が施行された以降に浄化槽を設置・新設する場合には例外を除いてこの「合弁処理浄化槽」を使用する事が義務付けられています。
2つ目は、水洗トイレの汚水のみを浄化する「単独浄化槽」という種類の浄化槽です。
この浄化槽は水洗トイレから出た汚水を沈殿分離・接触曝気・沈殿・消毒の工程を経て海や川に処理水が放流される仕組みの浄化槽ですが、濾過をして微生物を使い浄化処理を行う合弁処理浄化槽と比べると浄化処理能力が低く、公害や環境汚染となり得る状態で処理水が海や川に放出されてしまう事から、法改正を行った平成13年以降に浄化槽を設置・新設する場合には、この方式の浄化槽は設置が行えなくなりましたが、法改正前から単独浄化槽を使用するマンションや戸建て等については、早期に合弁処理浄化槽に変更して欲しいと言う経過措置が執られているため、現在でも希にこのタイプの浄化槽を使用している建築物が存在します。
マンションの浄化槽の仕組み|浄化槽のメンテナンス
浄化槽は公共下水道の未整備地域や立地の関係で、現在でも多く利用されている設備ですが、濾過や沈殿という工程を行う為にメンテナンスを怠ってしまうと浄化処理が行えなくなってしまったり、故障を起こし日常生活や衛生面で大きな支障が出る恐れがあるため法律に則ってしっかりとメンテナンスを行わなければなりません。
浄化槽を設置しているマンションや戸建てでは、年に1度は必ず有資格者による浄化槽の法定点検を行わなければならない事が、浄化槽法という法律で定められています。
その他にも、ポンプ機の調整や消毒薬の充填を行う保守点検が管理者には義務付けられており、浄化槽内の清掃も大切なメンテナンスの1つとなります。
昨今では、合弁処理浄化槽が増えた事や使用する部品の技術が向上した事で、一昔前ほど浄化槽内が汚れると言う事は少なくなりましたが、微生物の死骸や濾過しきれなかった汚泥、沈殿槽に溜まった固形物などの引き抜きは最低でも年に2回ほど行わなければならず、放置しておくと浄化槽本体の破損にも繋がり衛生的にも好ましくないため、マンションなどの集合住宅では特にメンテナンスが不可欠となります。
マンションの浄化槽の仕組み|まとめ
今回は、マンションに於ける浄化槽の役割や浄化槽の仕組みを中心に、マンションの浄化槽について解説をしてきましたが、現在でも自治体の予算の都合により公共下水道の未整備地が数多く存在し、浄化槽を設置しているマンションや戸建てが多く存在しています。
現在設置が認められている浄化槽は、一昔前の物よりも高機能化されており特段衛生面を気にする必要はありませんが、汚泥の引き抜きや清掃を怠るなど浄化槽のメンテナンスを疎かにすると微生物の活動が弱まり、汚水の浄化処理が行われないまま海や川へ処理水が放出されてしまい、公害や近隣とのトラブルにも繋がりますので注意が必要です。