不動産の差押と効力について解説をします。
店舗の運営資金や投資資金などを借金して返済ができなかったり、税金を滞納し続けたりすると、債権者から保有している不動産に対して差押をされることがあります。
当然、不動産を失う可能性が高くなります。
不動産の差押の効力には以下などがあります。
目次
不動産の差押の効力における処分禁止効
債権者から差押がされるとそれ以降、債務者はその不動産を売ったり、また不動産に抵当権を設定したりするなどの処分ができなくなります。
この効力を差押の「処分禁止効」と言います。
仮に、債務者が差押えられた不動産を勝手に第三者に売ったとしても、強制競売の効力に対抗することはできません。
例えば、差押えられた土地を債務者がAさんに売ったとしても、その後に競売によってBさんがその土地を落札した場合、土地の所有権者はAさんではなく、Bさんになります。
差押の処分禁止効は強制競売の前に不動産の価値が減らないようにするとともに、債権の回収を確実にするための代表的な効力になっています。
不動産の差押の効力が及ばない通常使用
不動産の差押は債務者の生活まで脅かすものではありません。
従って、処分はできなくなりますが、差押えされたからといって即時に債務者が当該不動産を使えなくなるわけではありません。
民事執行法第46条2項では「差押えは、債務者が通常の用法に従つて不動産を使用し、又は収益することを妨げない。」と規定されています。
つまり、差押えられた後でもその不動産の「通常の用法に従った使用・収益」ならすることができるということです。
例えば、債務者は自分の所有する住宅を差押えられても、競売完了まではそこに住み続けることができます。
また、差押えられた店舗で商売ができますし、差押えられたアパートの家賃を自分の収入とすることもできます。
不動産の差押の効力となる時効の中断
法律上、債権における時効には「中断」や「停止」などの制度が定められています。
中断とは、時効の期間がリセットされることです。
例えば、時効が5年で成立する場合、期間が4年進行していたとしても、それまでの期間は無かったことになります。
つまり、中断された時点で改めて5年の期間が開始されます。
停止は時効の期間が一時的に停止するにとどまります。
例えば、時効が4年進行していた時に停止になったとして、停止期間が終われば、従来通り4年進行した状態から時効が再開します。
裁判所を通した不動産の差押え、仮差押えまたは仮処分は、民法上の時効の中断事由として規定されています。
しかし、裁判所を通さずに、債権者が債務者に対して督促や催告などを行っても中断事由にはなりません。
不動産の差押の効力を守るための保全処置
債務者が差押えられた不動産に対して、故意に破損したり、管理や保存を怠ったりすることで不動産の価値の下がる懸念があります。
こういった物理面での価値の低下は、「差押による処分禁止効」では防げません。
そこで、債権者は正当な売却のための「保全処分」を裁判所に申立てることができます。
申立が認められると、裁判所から債務者や不動産の占有者に対して、不動産の価値下落行為(建物の破壊行為など)の禁止命令や、保全行為(第三者の建物への侵入を阻止する管理など)の命令が下されます。
そして、債務者がこの命令に従わなかった場合は、債務者の費用負担によって他の人を管理させる、若しくは債務者に罰金を科すなどの処置が採られます。
不動産の差押の効力を得るための手続きと流れ
不動産の差押をするには、当該不動産を管轄する地方裁判所に対し、必要書類を添えて不動産強制競売の申立てを行います。
なお、申立費用として、以下の費用がかかります。
- 収入印紙代:4,000円
- 予納金:60万円
- 登録免許税:確定請求債権額の4/100
申立が裁判所で受理されると、不動産執行が開始された事実が裁判所から宣言されます。
裁判所は不動産に設定された抵当権や申立人以外の債権者、不動産の評価額などの調査を開始し、調査が終わると不動産は競売にかけられます。
競売が完了すると、所有権移転の登記手続きが裁判所にて行われます。
なお、債務者はこの段階まで不動産の所有権を有しています。
競売代金の配当に関しては、全ての債権者に配当を受け取る権利がありますが、国税庁や抵当権者へ優先して配当が成され、残額が一般債権者に配当されます。
不動産の差押の効力の確実性
現実には、借金を返済できないような債務者の場合、その所有する不動産には幾重もの担保の入っていることがほとんどです。
そのため、競売にかけても回収できる金額は微々たるものになります。
従って、差押は債権回収の手段としては確実性に劣るケースが少なくありません。
それでも、不動産は価値が高く、また隠すことが難しいため、差押の中心的存在であることは確かです。