不動産売買の分割払いにおける移転登記の処理について紹介します。
一戸建てやマンションなどの不動産を売買する場合、購入代金は通常、現金での一括払いになります。
ただ、不動産の価格は数千万円にもなるため、中にはまとまった資金を用意できない買主から分割払いを依頼される場合があります。
目次
不動産売買の分割払いでも移転登記は可能
一般的に、不動産の売買では購入者が銀行などと住宅ローンの契約をし、その借入金を不動産の購入代金に充てます。
従って、住宅ローンが組めなかった場合は必然的に売買契約は破棄となります。
そこで、疑問なのは、不動産売買において分割払いでの購入は不可能なのかということです。
実は、法律上では分割払いでも不動産売買は可能です。
改正民法の第521条には「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2、契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。」と定められています。
従って、当事者同士が承諾すれば分割払いが可能であり、移転登記もできます。
不動産売買の分割払いにおける移転登記の問題
法的に分割払いは可能でも、あまり現実的な対応とはいえません。
つまり、不動産売買のような長期間に渡る分割払いにおいて、支払いが滞らないという保証が全く無いのに、移転登記をするのはあまりにもリスクが大き過ぎます。
また、完済するまで移転登記をしないのも、税務上の問題が生じます。
さらに、売主に住宅ローンが残っていた場合は、抵当権を抹消しなければなりません。
つまり、売主が不動産を取得する際に借入金の「担保」として金融機関に不動産を提供しており、金融機関は不動産に「抵当権」を設定しています。
従って、不動産を売るためには残っているローンを自費で完済し、抵当権を抹消してもらわなければなりません。
不動産売買の分割払いで移転登記をする場合の公正証書の作成
仮に、分割払いによる支払い方法で契約時に移転登記をする場合は、売買契約書を「強制執行認諾約款付き公正証書」にすることが肝心です。
売買契約書の記載事項の中に、「万が一、分割払いにおいて債務不履行があった場合は、強制執行を可能とします」といった内容を記すことによって、買主が支払い不能になった場合でも、売主が不動産やめぼしい動産を差押えることで、損害が発生しないようにします。
公正証書は判決と同じ強制力を持っているため、売主は裁判に訴えなくても直ぐに強制執行をすることができます。
買主にある程度の財力のある場合は、有効な手段となります。
不動産売買の分割払いで移転登記をする場合の抵当権の設定
同様に、分割払いによる支払い方法で契約時に移転登記をする場合は、売却する不動産に対して、「抵当権」を設定する方法があります。
売却した不動産を担保に取ることで、未払い代金の回収を確実にします。
抵当権は登記簿にも記載されるため、第三者に対しても対抗できます。
また、抵当権の他、売主が支払われた代金を返還し、物件を取り戻す(買い戻し・再売買の予約)登記をする方法もあります。
売買と同時に、買主が転売することを阻止するためです。
こうした買主の権利を制限する登記を付けておくことで代金の完済を促します。
完済後はその登記を抹消することで、買主は不動産を自分の所有物にできます。
家族間での不動産売買における分割払いでの移転登記
売買時に移転登記をする場合、家族間取引であればリスクが小さくて済みます。
ただし、以下の2つのことを取り決めることが必要です。
1.利息の設定
不動産に関わらず、代金を分割払いにする場合は利息を取るのが一般的です。
家族間の売買だからといって、分割払いにおける利息を取らないと、税務署から利息分を贈与したものと見做されます。
なお、利息を微々たる額にすると、一般的な利息額との誤差をやはり贈与したと疑われます。
2.担保の設定
例え、家族間ではあっても、滞納時や完済不能時における担保の設定をしておきます。
家族間においても金銭の貸借はきちんとすべきであり、それが支払いに対するコミットにもなります。
不動産売買の分割払いでの移転登記はリスクが大
不動産売買は非常に高額な取引であるため、何らかの不手際があると、損失も大きくなります。
特に、不動産の移転登記を済ますと、登記権利者は支払いの有無に関係なく、法的に強い権限を持つようになります。
従って、売主は不安定な立場に立たされるため、不動産売買では現金での一括売買が原則であり、分割払いは拒否するのが賢明です。