心理的瑕疵に対する不動産の告知義務違反における判例について紹介します。
不動産業界には「告知義務」というものがありますが、告知義務は宅建業法にある「宅地や建物を取得、または借りようとしている取引の相手方に対して、取引の判断に影響を及ぼすことは予め説明しなさい」との規定に基づいて運用されています。
ただ、明確な判断基準が無く、違反に対する判断は過去の判例が参照されています。
目次
不動産の告知義務違反における判例となる瑕疵の非明示
ある建物や土地において、自殺や殺人事件などがあった場合、その物件は「事故物件」として扱われます。
事故物件という事実に関しては「心理的瑕疵」の一種とされており、その物件を売却・賃貸する際には、買主・借主に対して内容を告知する義務があります。
そもそも瑕疵とは、売買や貸借の目的となる物が、通常有する性質を欠いている状態のことをいいます。
簡単に言えば、欠陥です。
建物であれば、「柱の内側が腐っていた」、「配水管に穴があったために水漏れをしていた」など、物理的な瑕疵が告知義務とされています。
そして、瑕疵は何も物理的なものだけではなく、判例においては心理的瑕疵も認められています。
不動産の告知義務違反として判例で認められている心理的瑕疵
心理的瑕疵が判例で認められているとはいっても、単に「住み心地が悪い」、「近隣の景色が良くない」というのでは対象外です。
心理的瑕疵の基準については、数十年間における判例の蓄積があります。
簡単に言うと、「人が居住・利用したくないと思うような事情の有無」で裁定されます。
例えば、当該物件で過去に事件や事故、自殺があった他、性風俗店などの公序良俗に反する使われ方をしていた、または物件のすぐ近くに火葬場が建設されている、隣のビルの1階に暴力団事務所が入っているなどが対象になります。
ただし、これらの事情が直ちに心理的瑕疵になるとは限らず、総合的な観点から裁定されます。
不動産の告知義務違反とされる判例の心理的瑕疵の判断材料
判例で告知義務違反とされる心理的瑕疵には以下のことが加味されて裁定されます。
1.利用目的:居住用か事業用か
2.事件などの重大性:報道日数や住民へのインパクト
3.事件などの発生後の経過年数:数ヶ月か数年か
4.近隣住民の流動性:都会か田舎か
5.居住者:独身か家族か
6.事件・事故後の処理:当該物件が残存しているのか解体されたのか
これらの事情の相関性でもって判断されます。
例えば、殺人事件がで何日間も報道されるほど重大事件であった場合は心理的瑕疵が何年も残りますが、ニュースにもならなかったような自殺であれば心理的瑕疵は短期間で無くなります。
不動産の告知義務違反とされる判例の心理的瑕疵の具体的事例
告知義務違反となる心理的瑕疵における具体的判例としては以下などがあります。
- 当該物件が居住目的であると、9年近く前の事件であっても瑕疵が認められています。
- 特殊な例としては、凄惨な殺人事件の起きた場所が農村地帯のような人の流動のほとどないような場合、約50年前の事件について瑕疵が認められた判例があります。
- 賃貸物件における自殺の場合は、2~3年で告知義務が消滅するとされています。また、告知すべき対象は原則として次の賃借人までとなっています。
このような傾向から、特に売買においては過去に事件などがあった場合は告知することが必須です。
不動産の告知義務違反とされる判例の場合の責任
通常、中古物件の売買契約では、告知書(付帯設備及び物件状況確認書)が買主に交付されます。
また、仲介業者には重要事項説明義務の他、取引上重要と考えられる事項についての告知義務が課されています。
そして、告知義務に違反した場合は、以下の責任を負うことがあります。
1.瑕疵担保責任または債務不履行責任の追及により、契約を解除されます。
2.不法行為責任の追及により、損害賠償を請求されます。
特に、損害賠償に関しては認められるケースが多くなっており、心理的瑕疵の程度に応じて最大で売買代金の25%程度の賠償額が認められています。
賃貸の場合は、契約の解除はあっても損害賠償まで認められる例はあまりありません。
不動産の告知義務違反における判例への遵守
不動産の売買においては告知義務に対する意識を強く持つことが必要です。
勝手な解釈でいい加減な対応をすると後で高額な損害賠償を請求されることになります。
特に、民法においては物的損害だけではなく、精神的な損害に対する賠償も認めるケースが多くなっています。
不動産売買は高額な取引であるため、安易な判断をせず、事前の判例の確認が大切です。